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ペットの法律・ペットと法律 喜多村 行政書士事務所
日本行政書士会連合会登録 第12080676号 東京都行政書士会 会員 第9030号
飼育されている動物にも野生に強く基づく本能は存在する。
従順な動物でもそれは飼い主についてのものであり、その他にあて
はまるものとは限らない。
ペットによる加害・被害事故についての責任を問う裁判例において、これらの考え方がよく見受けられます。
日々ペットと生活を共にしている飼い主からしてみれば、決してそうとばかりは言い難いと思われることですが、実際に事故が発生してしまったらペットの行動は『動物本来の習性』の部分に焦点をあてた判断がなされます。
裁判に発展した加害事故での飼い主の主張の多くは、日常のしつけの充実とそれに伴う従順性を申し立てるものです。しかし『畜犬は、一般に、家人に対しては温順であろうが、未知の人に対しては必ずしもそうではなく(後略)』(東京地裁S33.11.27)の判示にあるように、飼い主以外の人や他の生きものや物に対しては、普段の行動がそのまま反映される場面ばかりではないということはこの裁判例以外でも示されています。
犬だけに限らず、ほかの動物でもその種本来の野生は当然に備わっていると考えられます。
もし、動物の家系図というものがあり、その系譜のうえで代々続くペットであって、もはやペットであることそのものが本能と思えるほど従順であっても、いざ事故をおこしてしまったら、普段意識しなかった野生という部分に問題が及びます。
ただ、ペットが加害行為に及んだとしても、ペットが有する野生は当然責められません。以下はある事故の例です。
《9歳の子供が正面から歩いてきた散歩中の大型犬2頭を見て『こわい』と顔を覆ったところ、この2頭に咬まれ、怪我を負った》
子供はただ驚いて顔を覆っただけなのに、2頭はこれを自分に害を及ぼす前触れと感じたのかもしれません。人間や他の生き物にも備わっている自己防衛本能は、自分が知らないものについてはより強く働きます。人間と言葉が交わせない動物であればなおさらです。
この件は裁判の結果、大型犬2頭を散歩させていた側に重い責任が課されたようです。『こわい』と言って顔を覆った子供の行為が2頭に脅威を与えるものではないことが明らかであるのと同様、これを威嚇と感じた2頭の自己防衛本能も責められるものではありません。
また、大型犬2頭を連れ立って散歩させることができていたという点で、この2頭は確かに従順であったのかもしれませんが、それは訓練を施していた者に対してのことであって、あらかじめ他者にもその保証が及んでいたわけではないということになります。
一部違法性が著しい場合も含みますが、ペットによる加害行為に適用され得る主な刑法上の罪は以下のようになります。
・過失傷害罪 ・過失致死罪
・業務上過失致傷罪 ・業務上過失致死罪
(業務とは、ペットの管理自体が業務となる場合です)
・重過失致傷罪 ・重過失致死罪 ・傷害致傷罪 ・傷害致死罪
・器物損壊罪(刑法上では、過失に基づく結果はこれにあたりません)
そして、これらの刑法上の罪に至るかどうかに関わらず、ペットの行動が原因となる被害を他人に与えてしまった際には民法第709条の『不法行為』の責任が伴います。
【民法 第709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し
た者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
しかし、物事常にどちらかが一方的に悪いとばかりは限りません。そのようなときにはそれぞれの過失と認められる部分を比較し、その割合でお互いの責任度合をはかる『過失相殺(かしつそうさい)』の方法が用いられます。
ちょっかいを出されたのが原因でペットが加害行為に及んでしまった場合、飼い主の注意義務違反による不法行為責任が問われる以上に相手の過失が重ければ、その分飼い主の責任は軽減されます。また、相手の行為が故意であれば、その結果は自業自得、つまり『自招(じしょう)行為』とみなされることもあり、飼い主の責任には及ばないこともあります。
また、責任が確定した場合、不法行為によって相手方が失うことになる利益(『逸失利益』と言います)から、場合によっては同時に得たと考えられる利益を控除して賠償金額を算出する『損益相殺』の方法がとられるケースがあります。ただ、失う利益と得られる利益それぞれに何が計上され得るかについては当事者同士の主張について衝突の可能性があります。
しかし、得られる利益と言っても、自分にかけた保険金や加害関係者以外からの見舞い金などはこの種の利益にはあたらないと考えられていますので、入通院などが長期に及んだために高額となった保険金なども利益の対象外です。
責任能力
自分の行為についての善悪や正誤とその結果責任の予測認識が
可能である知能
事理弁識能力
結果責任の認識に至らないまでも、自分の行為の善悪や正誤の
判断が可能な知能
ペットの事故に限らず、未成年者が関係する出来事の責任その他については、この2点の年齢基準による判断がなされます。
共に民法条文中に明確な規定はありませんが(刑法罪の場合には同法第41条によって『14歳』と定められています)、判例・通説では個々の事例
や本人の発達具合による若干の差異もありながら、一応の目安として『責
任能力』については11〜14歳程度から、そして『事理弁識能力(じりべん
しきのうりょく)』については6歳程度ではないかと考えられているようで
す。
他人に損害を与える行為について直接責任を問うための基準のひとつに、加害者本人が責任能力を満たしているかどうかについてがあります。
加害行為者本人が責任能力を持たなければ、、本人の責任は監督義務者
(事故の場面や状況によって異なります)が負うことになります【民法第714条】。
民法上は、この監督義務者が充分監督義務を尽くしたことを証明できれば、その責任を免除されるとする規定もありますが、どの程度に達していれば義務を尽くしたと言えるのかについては個々の事案によって判断は分かれます。
また、本人に責任能力が認められ、被害を与えたことについて責任を指摘することが可能だとしても、不法行為責任に基づいての損害賠償の方法は金銭の一括支払いが原則とされているため、支払い能力が低いと考えられる未成年者に直接その賠償を命じても実効性が乏しくなります。
そこで、未成年者の不法行為による被害と監督義務者の監督義務違反に相当の関係性(原因と結果の充分なつながり)が認められれば、未成年者本人よりも経済力に期待がもてる監督義務者がその賠償にあたらなければならないとされています。
事理弁識能力が問題とされる多くは主に被害者になってしまったケースで、加害者責任との過失相殺を評価する場面においてのようです。
ペットにちょっかいを出してしまったことが原因による事故について、他の家のペットにいたずらをすることの良し悪しが判る知能を認められれば、この子供について『身分上ないしは生活関連上一体をなすとみられるような関係にある者(主に親権者)』(最高裁S42.6.27)も含めて『被害者側の
過失』として過失相殺の対象ととなることが考えられます。
また、子供が乳幼児の年齢で事理弁識能力が認められない場合でも、監督義務者の監督責任が問われ、この欠如が過失とみなされることもあり得ます。