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ペットの法律・ペットと法律 喜多村 行政書士事務所
日本行政書士会連合会登録 第12080676号 東京都行政書士会 会員 第9030号
民法第709条の『不法行為』はとても広範囲に適用されます。刑法罪が適用される事件や事故には特定の被害者に対する責任として付随しますし、日常のほんのささいな出来事に単独であてはまるケースもしばしばです。
条文には『故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う』とあり、これによって生じた損害の範囲は民法第416条第1項で『通常生ずべき損害』と
して、さらにその解釈のうえでは『加害行為と相当の因果関係(原因と結果の関係)に立つ』ものがその対象になり得るとされています。
原因・結果・損害範囲が事故の当事者同士で明確に共通認識されていれば問題はないのですが、ここに差異があると、この『相当の因果関係』と損害範囲が適当であるかについての衝突が懸念されます。
そして、損害賠償の範囲についてはもうひとつ、民法第416条第2項の『特別の事情』の有無があります。
【民法第416条 第2項】
特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予
見し、又は予見することができたときは、その賠償を請求することが
できる。
特別の事情とは、損害そのものとは別の面で被る損害を指すとされています。
例えば、1本の脚に怪我を負わされたペットの損害はあくまで怪我による身体の不調やその治療費等なのですが、このペットには売買の契約がすでに成立していて、怪我を負ったことでこれが解除となり、それによって飼い主が得られるはずであった利益が失われてしまったというような事情が伴った場合には、これが特別の事情にあたるかが問題になるかもしれません。
この点について、交配予定のあるペットの死亡による交配機会の滅失が特別の事情にあたるとした裁判例(東京地裁S36.2.1)がありますが、条文にもあるように当事者(この場合は加害したペットの飼い主)が売買や交配についてあらかじめ知っていたか、知るに足りる充分な事情があったという事実が無ければ、この特別の事情に基づく損害についての賠償責任は生じません。
個人的な印象で恐縮ですが、ペットに関する法務の取扱いを始めてから、最も印象に残るのがこの部分です。
再度、民法第718条を記します。
第1項 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任
を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもっ
その管理をしたときは、この限りではない。
第2項 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
文言上では『相当の注意』をしていれば責任は負わずに済むとされていますが、これにはペットの飼い主や飼い主に代わって管理をする人が普段当然に施しているはずの注意が、客観的に見て『相当』の域に及んでいたことが認められることが必要です。そして事故の例とそれに伴う裁判での見解一般では、この『相当』が認められるための条件はとても高く、そして難しいようです。
日常、注意を怠らずにしつけをしていても、実際に事故がおきてしまったら、事故の事実を前提とした判断がなされます。しっかり管理したうえでそれでも事故になればそれは動物のせい、とはいかないことを考えれば責任の所在を占有者や保管者に求めるのは当然とも言えます。
動物に関係する法律での『相当の注意』の要求は『不注意』を非難することではなく、『注意していたのはわかるけど、それでも足りなかった注意』を指摘する意味のようです。
最近はあまり見かけませんが、家の玄関先に赤い文字で『猛犬注意』の札が張られたその庭先には、可愛らしい小型犬が一匹、というようなことがありました。あきらかに外部からの侵入者への形式上の威嚇なのですが、相当の注意義務、ということを考えてみると、あながちその仰々しさを笑ってばかりもいられないと思えます。