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ペットの法律・ペットと法律 喜多村 行政書士事務所
日本行政書士会連合会登録 第12080676号 東京都行政書士会 会員 第9030号
これは裁判にまで発展してしまった例です。
一戸建ての家で飼っていた犬の鳴き声によって、近隣住人が健康
状態の不調を感じ始めたのが A年。
これについて飼い主に直接苦情を申し入れたのがB年。
調停不調の末、裁判に発展したのがC年。
簡易裁判所での判決がD年。
これを不服とする控訴の末、地方裁判所での判決が下ったのがE年。
これらの経緯を経てAからEまでに費やされた期間は約23年。A年からB年までに9年ほどが経過していたこと、動物愛護管理法の制定が昭和48年であり、C年の時点でまだ各自治体の条例制定には至っておらず、D年頃からようやく自治体毎の条例が定めらたこと、等を差し引いてもかなり長期にわたる争いであったようです。
これは昭和の時代の出来事であり、法整備等が進んだ現在で同様の事例がこれだけの長期に及ぶことは考えづらくはありますが、最終的に近隣住民の訴えが認められたこの裁判の判決基準は現在まで永く用いられています。
この判決基準は『受忍限度論』と称されています。『受忍限度』とは『社会共同生活で騒音や振動など市民が互いにかけている迷惑を社会的に忍容すべき範囲(広辞苑)』と捉えられます。
動物が人や物を傷つけたというような直接的な加害ではなく、鳴き声や臭気など、動物であれば当たり前の特徴ではあるけれど、それが結果として周囲の迷惑とされるケースに今なお広く応用されています。
しかし、この受忍の限度について、『ここまでは我慢しましょうね。』と具体的に規定する法律はありません。したがって『ここが我慢の限度』として認められるかどうかについては個々の状況毎に判断されます。
また、受忍の基準や範囲を考えるうえで『社会通念上』というものが基準とされます(一般常識、と考えてよいと思われますが、何故か法律関係の言葉のうえでは一般常識という単語はなかなか見かけません)。
被害を訴える『個人』と『社会』という大枠とのバランスをどう量るべきかはとても難しい問題ですが、法律が明確に定めることができない最たるものは個人の感情です。住居や近隣に関するトラブルはこの感情に比重がかかることが多く、こじれ易くなってしまうことが懸念されます。
ペット可・ペット不可。入居や所有の際、今や欠かす事のできない条件です。特にアパートやマンション形態の場合、ここで生じるドラブルは人対人の関係もさることながら、それ以前に入居規約、あるいは管理規約などに関わるものが多いようです。そのなかでも管理規約は単なる決まり事にとどまらず『建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)』に基づく法的拘束力を持ちますので特に注意が必要になります。
賃貸アパートやマンションの入居規約は『借地借家法(公営の場合は公営住宅法や各条例も加わります)』に、所有型マンションの管理規約は『区分所有法』にそれぞれ基づきますが、あらかじめペット飼育不可の約束に反してのペットの飼育は当然認められません。逆にペット可であれば、規約に定められている動物については一緒に住むことができますし、管理をしっかり施していれば、近隣住人の方々とのトラブルを避けることもできます。
しかし、何らかの理由でこれが入居後に変わることもあります。
例えば、分譲マンションの入居当時にはペット飼育の可・不可についての規約がなかったとします。ペットを飼育している人、していない人、むしろ動物が嫌いな人が混在するなかで、ある日、適法な手続きによって成立した管理規約の変更によって、あらためてペット飼育について新たにこれを可とする、あるいは不可とする規約を定めた場合、これによって各入居者の利害に影響が及びます。
ペットを飼育していて、途中から規約の改定によってペット禁止となってしまった場合、その際問題になるのは、
ペットの飼育が区分所有法第6条1項が定める『共同の利益に反する
行為』に該当するか
規約改定による禁止が同法31条1項にある、飼い主の権利に『特
別の影響を及ぼすもの』か
についてが主なところのようです。
『共同の利益に反する行為』という点について、ペット飼育は一般論として『マンション内での動物飼育は一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのあるもの』とされ、例え現実に被害が発生していなくても、ペットの飼育が『共同の利益に反する行為』に該当し、これを一律禁止する規約も区分所有法によって許容されるものと解釈されます。
これは、ペットは飼い主に対して普段従順であっても、飼い主以外についてその安全性があらかじめ保証されているものではないとする考え(動物による咬傷(こうしょう)事故の場合にもよく用いられます)に基づくものです。
また、一部であっても規約の制定や変更が区分所有者の権利に『特別の影響を及ぼす』ものであれば、その承諾を得なければならないとする事項が区分所有法の規定にありますが、ペットとの生活が飼い主にとって必要不可欠であり、これが禁止されることによって飼い主に及ぶ影響が特別であると認められるためのハードルはかなり高いものです。
実際にペットの存在が必要不可欠とみなされるためには、飼い主の主張以上にそれを必要とみなす客観性が求められます。つまり、どれだけ可愛がりしつけをよくしていても、そのペットの存在・不存在が生活に『特別の影響を及ぼす』ものにあたるかについての判断の基準は『社会通念』同様、あくまでも自分の考えとは別の観点によってなされます。
そして、実際には盲導犬・その他の介助犬など、飼い主の生命や健康に直接かかわる動物などが『特別の影響』と捉えられているようです。
しかし、所有型のマンションで入居途中からの規約変更によってペットが禁止された場合、規約そのものと法律面で正面から衝突せず、しかも規約の特性を生かす折衷方法をとることは可能かと思われます。
これは実際に行われていた事例ですが、規約改正時点でペットを飼っていた住民が『ペットクラブ』を組織し、現在飼っているペットの一代に限る(すでに親子を飼っている場合はさらに子供をもうけさせない)ことや、予防接種の処置済みの証明を毎年提出すること他を条件に、この組織の存在と運営自体を管理規約に盛り込むことによって飼い主の権利を維持するものです。